思い出が詰まったピアノを使い続けられる家具へ

木工作家・柴原勝治さんが主宰する「FOREST GALLERY」には、今年の春から１台のピアノが展示されています。このピアノは、柴原さんが依頼を受けてライティングビューロー（棚付き机）へとリメイクした際に、鍵盤やハンマーなどピアノの心臓部をとっておき、新たな木材を使って復元したピアノだそうです。

約30年前から木工作家として家具を制作してきた柴原さんが、初めてピアノのリメイクを手がけたのは２００７年のこと。「夫の形見のピアノを、新しい形に生まれ変わらせることはできないか、と相談を受けました。初めてのことだったので試行錯誤でしたが、お客さまと何度も打ち合わせをして、ピアノを分解した木材からワイングラスを収納するキャビネットと、お嬢さまのベッドのヘッドボードをつくらせていただきました」

これがきっかけとなり、柴原さんのもとにはピアノのリメイクの話が舞い込むようになりました。柴原さんは、いずれのケースでも、ご家族にとって大切な思い出が詰まったピアノを処分するのはしのびないという思いは共通していると語ります。「お客さまにピアノの由来や思い出を伺ううちに、ピアノというのはそれぞれの家族が過ごした時間の象徴のような存在だと考えるようになりました。だからこそ、ご家族みなさんでずっと使い続けていただけるものにリメイクすることを心がけています」

リメイクから広がる新たな創作活動

ピアノは家族の絆の象徴。残したいという思いを大切にしたい。

冒頭で紹介したピアノは、亡きお母さまが大切にしていたピアノのリメイクを都内に住むご家族から依頼されたことがきっかけになって生まれたもの。娘さんにお話を伺ったところ、このピアノをお母さまが手に入れたのは１９６２年。当時ニューヨーク在住だったご家族にとって、思い出深いピアノだそうです。「ピアノにずっと憧れていた母。両親がスタインウェイのショールームの前を通りかかったときに、父が母にプレゼントしたと聞いています。父は初めてローンを組んで買い物をしたと言っていました」。帰国の際は船便で大切に運び、日本でも時々お母さまが弾いていらしたそうです。

お母さまが亡くなって数年、楽器不可のマンションに引っ越すことになったのを機に、ご一家はリメイクを依頼しました。柴原さんは「なるべくもとの形を残したい」との思いから、ライティングビューローへのリメイクを提案。引っ越し先のレイアウトに合わせてサイズを決め、鍵盤などを取り外し、天板を新しいものに替えるなどして、新たに家具として生まれ変わらせたのです。出来上がったライティングビューローを納品したとき、ご家族は「おかえり」と言って新居に迎えたといいます。

柴原さんにとっても、このリメイクは大きな転機となりました。「今回初めて、分解する前に〝お別れコンサート〟と題して、これまでピアノリメイクを依頼してくださったオーナーさまやご近所の方に声をかけて演奏会をしたんです。その時音楽が人を結びつける力を実感し、リメイクする際に鍵盤などをとっておいてピアノを作ってみたんです。できあがったときに開催した〝おひろめコンサート〟も好評でした」

このピアノを弾いてみたいという声を受けて、ギャラリーではコンサートやワークショップを開催しています。「リメイクを機に多くの方と出会い、私の世界も広がりつつあります。これからも、ピアノリメイクが広げてくれた人の輪を大切に、人の心に響くものづくりを続けていけたらと思います」