vol.3 山中漆器

山中漆器では初の女性木地師を目指す

加賀温泉郷の一角を占める山中温泉は、山間部の情緒ある温泉街で、安土桃山時代からの歴史を誇る山中漆器の産地としても知られています。漆器作りには木地(きじ)、塗り、蒔絵の工程がありますが、山中漆器は木地のろくろ挽(び)きの評価が高いのが特長。同じ石川県内の漆器産地と合わせて「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称されています。

その山中温泉に生まれ育ち、漆器作りの道を歩んでいるのが山田真子さん。「私が初めて漆器に触れたのは、地場産業を学ぶ高校の授業でした。その時に、湿度がないと乾燥しないという漆独特の性質に魅かれたんです」と当時を振り返ります。「産地ですから身のまわりに漆器はあったのですが、その授業を機にもっと深く漆を知りたくなりました。最初は漆にかぶれてしまったのですが、それすらも不思議だな、面白いなと感じたのです」

ろくろを使って木地を挽く。山田さんは柔らかな雰囲気が好きで栃(とち)を使うことが多いそう。

その体験に導かれ、高校卒業後は漆工芸科のある短期大学に進学。「当初は蒔絵の工程に関心があったのですが、学ぶうちに木目の美しさを引き出す木地師を目指すようになり、卒業後は挽き物を専門に学ぶ地元の研修所に入学しました」。同時に木地工房に弟子入りし、同じお椀を同じ品質でいくつも挽くというような、職人としての基礎を身に付けていきました。

25歳で独立し、実家の一画を改装した工房で制作活動をスタートしました。「それまで山中漆器に女性木地師がいなかったこともあり、独立当初は試行錯誤の連続でした。けれども、師匠や両親が温かく見守ってくれたことで、目指した道を真っすぐに進んで来られたと思います」

ろくろ挽きの技を使って作った小皿。

木目が美しい椀。「木目が見える拭き漆は、山中漆器の特長である木そのものの美しさを引き出してくれます」

伝統技法である加飾挽きを施した椀。

高台がなく、多用途に使えるボウル。木を乾燥させずに削ると、乾く過程で独特のかたちになる。

ブローチや帯留めなど、身につけられる小物づくりにも力を入れている。

伝統の枠を超えた軽やかな作風

通常の漆器作りでは、木地挽きから漆塗り、さらに金箔などの装飾を施す工程を、専門の職人が分業で行います。しかし山田さんは、自分が納得のいく作品を作りたいと、こうした全ての工程を自分一人で行っています。多岐にわたる工程を全て一人で行うには技量も時間も必要ですが、「木地を挽くのはもちろん、漆塗りも好きなので、自然とこうなりました」と微笑む姿には、気負いは感じられません。

工房には、そんな山田さんの人となりを映すような、普段使いにぴったりな拭き漆の器が多く並びます。そのひとつが、多目的に使える高台のない器。「昔ながらの山中漆器というと、味噌汁のためのお椀というイメージが強いと思うのです。でも私は、自分が使いたいものを作りたくて、丼として使ったり、ヨーグルトやフルーツを盛ったり、いろいろな使い方ができる器を手がけてきました。目指しているのは、手になじむ、柔らかくて軽い器です」

現在は、日曜日以外の6日間、十数時間を制作にあてている。「明るいうちは木地を挽き、夜に漆を塗っています」。こうして一つひとつ丁寧に作られる器たち。山田さんは、その器を使ってもらえることがものづくりの原動力になっていると言います。「どなたかが気に入ってくださって、使ってもらえることがうれしいです」。時には、何年か前に買ってくださったお客さまから、漆の塗り直しなどの修繕を依頼されることもあるそうで、そんな時は、毎日使っていただいていると感じ、うれしくなるそうです。

材料となる木のサイズを測り、使う道具の準備をする。

「これからも、たくさんの方に使ってもらえるように、新しいものを作っていきたい」と話す山田さん。一方で独立して十年が経ち、鉋(かんな)を使った木地の加飾挽(かしょくび)きなど、山中漆器の伝統的な技法にも魅力を感じるようになってきたとのこと。「鉋を使った筋模様は、刃物のかたちや鉋の当て方によって何十種類もあるので、少しずつ師匠に教えていただいているところです。山中漆器も、担い手である職人が減ってきている現状もあるので、ゆくゆくは技を伝えていけるようになれたらと思っています」

木が漆を吸い込まなくなるまで、下地漆を塗る。

漆を塗った器を室(むろ)と呼ばれる、湿度を一定に保った木の棚に入れて乾かす。

鉋は、作品に合わせて職人自らが作る。山田さんはお椀ひとつ作るのに、9種類の鉋を使っている。

ろくろ挽きをする前の状態の材料。

仕上げの際に使用する刃。表面を滑らかにするために用いる。

道具を置く台座などもすべて職人の手作り。

山中漆器の工程

1. 材料の乾燥

作りたいサイズに合わせた材料を乾燥機で乾燥させます。

2. 荒挽き・中挽き

はめと呼ばれる道具を使い、ろくろに木材を固定し挽く作業へ。途中何度も鉋を換え、削っていきます。

3. 仕上げ挽き

細部の作業や表面を滑らかにするため、鉋を刃に持ち替え、繊細に削っていきます。

4. 拭き漆・乾燥

木地に漆を馴染ませる「木地固め」の後、刷毛で漆を塗り込み、直後に余分な漆を拭き取り(拭き漆)、室で乾燥させる作業を繰り返します。

5.完成

拭き漆の作業を3回以上繰り返して完成となります。

山田真子(やまだ まこ)

1980年石川県加賀市山中温泉生まれ。2000年に国立高岡短期大学産業工芸学科漆工芸専攻を卒業し、石川県挽物轆轤技術研修所に入学。同所入学と同時に伝統工芸士である佐竹一夫氏に師事。2002年に同学を卒業し、2005年に独立。石川伝統工芸展入選、兼六茶会奨励賞など受賞多数。

mako.y@shirt.ocn.ne.jp

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