眠っていた毛皮のエレガンスを甦らせる
ゴージャスでラグジュアリーなファー(毛皮)は、秋冬のファッションには欠かせない素材。けれども、毛皮のロングコートとなると、最近では着ている人をあまり見かけません。「日本では、バブルの頃にお求めになった毛皮のコートを、クローゼットで眠らせたままにしていらっしゃる方が多いようです」と話すのは、ファーを中心としたオリジナル&セレクトショップ「BIJOUX(ビジュウ)」の目黒京絵さん。
「BIJOUX」では「大切にしまったままの毛皮をなんとかしたい」というお客さまの声に応えて、2008年から毛皮のリメイクをスタートしました。その背景には、目黒さんの「エレガントな存在の象徴ともいえる毛皮を箪笥(たんす)の肥やしにしておくのはもったいない」という思いがあったといいます。「ニットデザイナーだった母がファーをたくさん持っていたので、子どもの頃からファーは身近な存在でした。大学卒業後に欧米で働くようになってからは、寒冷地だったので毛皮は必需品。パリやミラノで見た、ファーをまとったエレガントなマダムの姿が印象に残っています」
かつては貴族しか着ることができなかったという最高級のファー・ロシアンセーブル(クロテン)のリメイクボレロ。つややかな毛並みが美しい。
ロシアンセーブルのリメイクケープをトルソーに着せる目黒さん。
目黒さんによると、ミンクやセーブルといった高品質な毛皮は耐用年数が約70年と長く、また熱さえ避ければお手入れも簡単だとのこと。「毛皮は長持ちする上、意外に扱いやすい素材です。さらに、毛足に隠れて縫い目が見えなくなるので、リメイクに適しているんですよ。もちろん保温性は抜群ですから、しまいこまずぜひ身に着けていただきたいですね」
セーブルのリメイクストールは、身に着けやすいデザインが好評。
フォックスのリメイクファーカラー(付け襟)。首に巻けば襟元がゴージャスになるほか、写真のようにバッグに付けてもおしゃれ。
一生ものの毛皮を若い世代へ
本物の素材だからこそ、手を入れることでより華やかに生まれ変わる。
目黒さんが手がける毛皮リメイクの特徴は、トレンドを反映したデザインと着心地の良さ。「襟のデザインひとつで印象は大きく変わりますし、毛皮の種類によっても映えるデザインが違ってきます。素材の良いところを生かすとともに、部分使いやリバーシブルなど、日常的に使いやすいようにしています」。また、着心地の良さに欠かせないのが、日本の職人の繊細な技術なのだとか。「海外では着なくなった毛皮は売ってしまうことが多いですが、私が手がけるのは、お客さまの大切な毛皮を、ご本人やご家族のためにリメイクするもの。体形に合わせて着心地良く作り替えるには、繊細さや真面目さといった心掛けが必要なんです」
リメイク前には、イメージスケッチを描く。
「BIJOUX」には、華やかなファーが並ぶ。
ケープの片側には、繊細な手刺しゅうを施した。
独特のカタチをしたファー用のミシン。
若い世代に向けたリメイクとして取材時に見せていただいたのは、ロシアンセーブルのロングコートを、ボレロ、ケープ、カフス、ロングストールの4点にリメイクしたもの。ボレロとケープはリバーシブルで、繊細なレースや刺しゅうがかわいらしい印象です。「一点ものの毛皮を扱うリメイクは慎重さも求められますし、腕のいい職人さんも必要で、実は大変な仕事。でも、お客さまから『また着られるようになった』と喜んでいただくのがうれしい。質のいい毛皮は一生ものですから、ご自身はもちろん、娘さんやお孫さんへと引き継ぐお手伝いができれば、とても幸せなことだと思っています」
お嬢さまがヨーロッパに留学されるのを機に、ご自身がお母さまから頂いたロングコートを、ボレロ、ケープ、カフス、ロングストール(バッグに巻いてある)にリメイク。20歳のお嬢さまが身に着けやすいように、リバーシブルの片面はかわいらしいイメージに仕上げている。