大切な家具だからこそ意匠を反映させたい
扉や引き出しに施された縁取りと丸みを帯びた脚がかわいらしい、小ぶりの収納家具。つややかに輝くあめ色の無垢材を生かしたデザインは、木のぬくもりとやさしさを感じさせます。
「実はこの収納家具は、30年ほど使った婚礼家具をリメイクしたものなんです」と話すのは、注文家具工房「ハンマーヘッド楽具」の鈴木良彦さん。「依頼主は、20代の姉妹。転居の際にお母さまの婚礼家具の置き場がないため捨ててしまうという話を聞き、お嬢さまたちから手軽なサイズにしてプレゼントしたいとのことでした。そこで、ピアノの下のスペースに置いて使える収納家具にリメイクすることを提案したんです」
リメイクの際にはイメージスケッチで仕上がりを確認してもらいますが、その際に鈴木さんが心がけているのが「元の家具としての意匠を反映させること」だそうです。「思い入れある家具だからこそ、お客さまは残したいと思っていらっしゃる。長年愛用されてきた家具の持っている雰囲気を大切にしています」
リメイクについて語る鈴木さん。「元の意匠は残しつつ、現代の暮らしになじむデザインにすることを心がけています」
婚礼家具が生まれ変わった姿を見たご家族はとても喜んでくださったそうで、「ピアノの下にしまい込むのはもったいない」と、転居先のリビングで使っているとのこと。「書類入れをお嬢さまたちが、引き出しをお母さまが使い、上にはお父さまが植木鉢を置いているそうです。ご家族皆さまで使っていただいていると伺ったときはうれしかったですね」
大きな衣類タンスを、小ぶりの収納家具にリメイク。楽譜などA4サイズの書類や本を立ててしまえる収納と引き出しを設けた。
リメイクにあたり、新しい部材を使ったのは脚の部分のみ。
思い出を守りつつワクワク感をプラス
家具は家の中の道具。道具としての機能とともに、楽しく使えることが大切。
無垢材を使った家具を制作している「ハンマーヘッド楽具」が、家具のリメイクに本格的に着手したのは5年ほど前。「以前も相談を受けたときには対応していましたが、ホームページにリメイクを掲載したところ、全国から依頼が来るようになったんです」
中でも多いのが、大きな家具を小さくしたり、用途を変えたいといった相談だそうです。「最近の家はクローゼットなどの収納が充実しているため、引っ越しに伴ってタンス類を処分しなければならないようです。皆さま『なんとか残せないか』とおっしゃるので、タンスを花台にしたり、キャビネットをデスクにリメイクするなどの提案をさせていただきます」
鈴木さんが恩師から受け継いだ桐タンスを食器棚にリメイク。
引き出し部分を棚にし、前面にはガラス、引き出しにソフトクロージングのスライドレールを取り付けるなど、和家具リメイクの可能性を探りつつ制作した。
新作家具づくりをメインとする「ハンマーヘッド楽具」が、メーカーを問わずに家具の修理・リメイクを引き受ける背景には、家具を大切に使い続けてほしいという願いがあります。「『買い直す方が早いし安い』ではなく、愛着ある家具を大切に使い続ける良さを知っていただきたいんです。そのお手伝いができればと思っています」と語る鈴木さん。「そのためには、リメイクすることで使いやすくなったり、今の暮らしになじむデザインになったり、以前よりもワクワクしていただけるような提案をしなければ。思い出深い家具に新たな愛着がわいてこそ、ずっと大切に使い続けていただけるものになると思うのです」
広い工房では、代表の松本忠明さんを含む4人の家具職人が制作に打ち込む(写真上は左から、仲間亮太さん、安藤元さん、鈴木良彦さん)。リメイクは鈴木さんが担当することが多いが、お互いに意見を交換しながら、より良いものづくりに励んでいる。
クラフトショップの店内。植木鉢などの雑貨も展示販売されている。