vol.1 駿河竹千筋細工

身近な素材・竹から繊細な美を生み出す

静岡は良質な竹を産することから、古くから竹細工の産地として知られてきました。

駿河の竹細工の特長は、「丸ひご」を1本ずつ組み上げることと、熱の力で枠を曲げること。こうした細やかな作業を経て、優美な曲線を描く作品ができあがります。見た目にも触れても優しい丸ひごは、虫篭、菓子器、花器、照明など、私たちの身のまわりの道具や器として重宝されてきました。

その竹細工の繊細な美しさに魅了され、この世界に飛び込んだ大村恵美さん。「静岡で生まれ育ちましたが、地元の伝統工芸品である駿河竹千筋細工の作品を初めて見たのは高校2年生の時でした。ひと目見て、その美しさに引きつけられ、自分の知っている竹から、どうしたらこんなにきれいな作品ができるのかと信じられない思いがしました」

その時の思いを胸に、高校卒業後は迷うことなく駿河竹千筋細工の工房「篠宮竹細工所」に弟子入り。「たった1人でしたので、お手本になるような先輩がいないのは正直言うと不安でしたが、やってみたいという気持ちのほうが強かったですね」。師匠である篠宮康博氏のもと、竹細工の道へと一歩を踏み出しました。「駿河竹千筋細工では、まずは竹を割って材料である丸ひごを作れるようになることを目指します。基本中の基本ですが、力加減の調整など、マスターするまで年期のいる仕事です」

筒状の竹から丸ひごを作る作業。縦に繊維が通る竹の性質を利用して、細くてもしなやかで強い丸ひごができる。

日々使うものを作りたいと語る大村さんデザインの茶道具入れ。お茶の稽古に通い、作品づくりに生かす。

名刺入れ。手軽に持ち歩けるような作品を、と制作した。

両面で趣の異なる細工を施した照明「影」。それぞれの竹の表情が灯りによって優しく映し出される。

1本1本異なる竹と向き合い作品をつくる

駿河竹千筋細工の世界では、一人前の職人になるまでにおよそ10年かかると言われています。「始めた当初は、やりたいこととできることのギャップが大きくて苦しみました。それが5、6年ほど経った頃から、なんとなくわかるようになり、作れるものが思い描くものに近づいてきました」

入門から15年。師匠の篠宮さんも「当初から本気で取り組んでいることは伝わってきた」と認める真っすぐな努力が実り、今では一人前の職人に成長しました。「やればやるほど奥深さや難しさがわかってきますし、知るほどに面白くなってきます」と語る笑顔は、すがすがしい力強さにあふれます。「竹は天然素材ですから、1本1本性質が異なります。けれど、工芸品でもある竹細工には、常に同じ品質の仕上がりであることが求められる。作るもののデザインによって、こちらが竹に合わせて調整しなければ、美しい仕上がりにはなりません。季節によって扱いやすさも変わります。日々竹と向き合う中で、職人として技を磨いていきたいです」

師匠の篠宮康博氏と。二人の会話から信頼関係が伝わってくる。

枠、網代、丸ひご。1本の竹がさまざまな形になり、ひとつの竹細工となる。

薄く削った竹を1本1本丁寧に編んでいく。

枠にキリで穴を空け、そこに熱でやわらかな曲線に形付けられた丸ひごを1本ずつ挿していく。

最近では、オリジナルデザインの作品づくりにも取り組んでいる大村さん。作品のひとつ、照明「影」は、和洋いずれの空間にもなじむモダンなデザイン。表は丸ひごの曲線を生かし、裏には編み目が六角形に見える「六ツ目編」を用いて、2つの趣を楽しめるように工夫しています。「デザインには、その人の感性や得意な技法が自然と現れてくるもの。私自身は、今までなかったものを作りたいという気持ちと、繊細さや丸みを生かして千筋細工の良さを表現すること、両方をかなえる作品づくりができればと思っています」

千筋細工を広く知ってもらいたいと、作品づくりの傍ら地元の小学校で体験授業をしたり、師匠の助手としてカルチャー教室での指導も行う。「高校生の時の私がそうだったように、竹細工に触れてその素晴らしさを知っていただける機会になれたらうれしいですね」

1本の竹から丸ひごを作るまで

1本の竹から丸ひごを作るまではたくさんの工程が必要。その一部を教えていただきました。

1)皮をむいた竹を鉈(なた)で割る。

2)「 剪台(せんだい)」で竹を削り、繊維が密になっているところを残すよう、一定の厚みに整える。

3)1.5ミリ間隔に竹を割る。先端を割ると、繊維に沿って下まで割くことができる。

4)「ひごこき」と呼ばれる穴に竹を通す。この段階で、0.1ミリ単位で太さを調整する。

5)千筋細工に欠かせない道具。使いやすいように一人ひとりが工夫を凝らす。台などは自作することもあるという。

大村恵美(おおむら えみ)

1982年生まれ。高校生のときに駿河竹千筋細工に魅せられ、竹細工職人の道へ。地元の小学校での体験授業など、竹細工に触れる機会の創出にも積極的に取り組む。
篠宮竹細工所
静岡県静岡市葵区建穂2-19-50

054-277-1710

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