vol.6 透かし和紙

材料から自分で育てる和紙の世界に魅せられて

1300年以上前からの手漉き和紙の伝統を誇り「和紙のふるさと」とも称される埼玉県小川町。なかでも楮だけを原料とする「細川紙」は、2014年に世界遺産に登録されるなど、日本が誇る伝統工芸として知られています。

その小川町の隣町にあたる坂戸市で、和紙作家として活躍する森田千晶さん。坂戸市に生まれ育った森田さんは、美大で彫金を学んだ後、アクセサリーデザインの会社に就職します。「アクセサリーの素材として、金属と貝類や木、ビーズなどを組み合わせる中で、和紙でも何か作れないかなと思うようになりました」

そんな時に小川町の和紙体験学習センターで体験講座が開かれているのを知り、参加します。「小川町のすぐ近くで育ったのですが、和紙のことはほとんど知らなかったのです。でも4日間で和紙漉きの一通りの工程を体験できる講座を受けて、その面白さに虜になりました」

透かし和紙を漉(す)く森田さん。簀桁(すけた)を揺らし紙料液を均等にならしていく。常に同じ厚さに漉けることと、その速さが熟練の技。

和紙に魅せられた森田さんは、会社勤めの傍ら、休日に同センターが所有する楮畑に通い、芽欠きの手伝いなどをするようになります。「彫金では使用する針金やシルバーなどがどこから来るのかわかりませんでした。でも和紙の材料は楮とのりの役目をするトロロアオイと水だけ。楮を自分で育てるところからできるなど、『元』が見えるところに魅かれました」

そうした日々が続くうちに、いつしか同センターのスタッフになった森田さん。会社を辞め、東京の部屋を引き払い、実家の庭で楮を育てながら紙漉きを始めます。さらに2003年からは、坂戸市内にある実家が所有する古いアパートを改装したアトリエを活動拠点に。「敷地内には陶芸作家、鉄作家のアトリエもあるのですが、2人とも実家が坂戸なんです。場所が線路のすぐそばなので『アトリエ線路脇』という名前を付けて活動しています」

レースのような繊細な模様が美しい透かし和紙の作品。和紙ならではのやさしい風合いにぬくもりを感じる。

フィルムに図柄をデザインする森田さん。線が途中で途切れることがないように描いていく。見せていただいたのは鳥かごをモチーフにしたデザイン。

デザインを型に起こして紙を漉く。デザインどおりに繊維が残り、ふっくらとしている様子が見える。

透かし和紙を漉くことで和紙の世界への「入り口」に

森田さんが和紙作家として活動を始めた2000年代前半の小川町は、和紙産業を再び盛り上げようと、若者を対象とした育成事業がスタートしたばかりでした。「書家や日本画家など、和紙を使う若いクリエイターが多く、切磋琢磨し合える環境に恵まれました」と当時を振り返る森田さん。試行錯誤しながらさまざまな技法を試みる中で、2005年にこれまでにない大きさに漉いた和紙で賞を得ます。「そのときに、自由に和紙と向き合っていいんだと、壁をひとつ超えた気がしました」

その後、2008年にオランダに留学。「シルクスクリーンの技法を学んだことで、型紙を自分で作ることができるようになり、世界が広がりました」。さらに古典柄の和紙に透かし模様の図案を見つけたことをきっかけに、オランダの骨董市で集めたアンティークレースの図案をトレースした型紙で和紙を漉いてみることに。2010年には、こうして生まれた「透かし和紙」に絞った個展「レーストレース」を開催し、好評を博します。

木造アパートを改装して作られた1階の工房。大きな和紙は奥で、小さな和紙は手前の漉き舟を使って漉く。

自らの代表作となった「透かし和紙」について、森田さんは「レースはもともと平面の図案を糸で立体に編み上げたもの。そのレースをまた平面である紙にすることに面白さを感じています。和紙の面白さや可能性を、より多くの人に伝えていきたい」と語ります。

その言葉どおり「透かし和紙」は、コースターやランプシェード、カーテン、アクセサリーなど、身近で使えるさまざまな用途に用いられ、和紙の新たな世界を切り拓いています。「伝統工芸としての和紙の魅力はもちろん今も厳然とあるのですが、それだけでは若い人たちに訴えられないと思うのです。私自身、かつては和紙になじみがなかったからこそ、出会った時に和紙の新しさを実感しました。自分が透かし和紙を漉くことで、和紙の世界の入り口のような存在になれたら理想ですね」

自宅兼作業場の障子紙も森田さんが漉いたアンティークレースの透かし和紙で作られている。

和紙を撚って編んだピアスやイヤリングなど、新感覚のアクセサリーも制作している。

数枚の紙をつなげて制作された個展用の作品。力強く、かつ繊細なデザインは、雄大な自然を感じさせる。

色味の違う紙を漉き合わせて作られた、メッセージカードや小箱。

作品やアンティークの家具に囲まれ、心地よい空気が流れる2階の作業場。

庭に楮(こうぞ)の木を植え、自らの手で育てている。葉が落ちた後に採取した枝を蒸して樹皮をはぐ。

蒸された樹皮をきれいに削り、白い皮に。削り取った樹皮が残る黒皮も紙の原料として使われる。

透かし和紙の工程

1. 紙の原料をつくる

水に楮の皮を叩いて繊維をほぐしたものと、トロロアオイなどの「のり」を混ぜ合わせる。

2. スクリーンをセットする

漉き簀(す)の上にシルクスクリーンを乗せて桁(けた)にセットする。

3. 漉き作業

漉き舟に簀桁を入れて紙料液をすくい、水を抜いていく。均等の厚さに仕上げるのが難しい作業。

4. 漉いた紙を簀からはずす

漉き終わった紙は重ねて圧をかけ水を搾る。その後、一枚ずつはがして時間をかけて乾燥させる。

出来上がった透かし和紙。

森田千晶(もりた ちあき)

女子美術短期大学造形学科生活デザイン専攻卒業。アクセサリーデザイン会社勤務を経て、小川町和紙体験学習センターに勤務。オランダへ美術留学の後、現在、アトリエ線路脇にて創作活動を行っている。

http://senrowaki.com/chiaki.html

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