日本人と漆の長い歴史から独自の修繕の技が生まれた
金継ぎとは、欠けたり割れたりした器を、漆で補修し、継ぎ目に金粉を蒔ま きつけて仕上げる技法のこと。「日本人と漆の関わりは歴史が古く、縄文時代には土器を接着するのに使われていたという記録があるほどです」と話すのは、金継ぎ作家の堀道広さん。
富山県出身の堀さんは、地元の短大の工芸科で漆について学んだ後、輪島で漆塗りの職人として仕事をしていました。漆職人として腕を磨く一方、絵が好きで「描くことをあきらめられなかった」という堀さん。描いた漫画が雑誌の公募に入選したことをきっかけに上京し、東京で漆職人と漫画家の二足のわらじをはく生活をスタートさせました。「漆は作業も根気がいるし、地味だし、けっして中心で脚光を浴びるような存在ではない。けれども、主役を支える存在としてのあたたかみがあるように思います」。
そんな堀さんが、仕事として金継ぎに取り組むようになったのは五年ほど前のこと。知り合いに教えてほしいと頼まれたのがきっかけでした。「もともと自分で使う器が壊れたときは金継ぎで直していましたが、一人に教え始めたら次々にやってみたいという人が現れて」。堀さんが「金継ぎ部」と呼ぶ教室は、今では東京と神奈川の4カ所で開催され、生徒は百人を超えるそうです。「震災をきっかけに、割れた器を直して使いたいという人が増えているように思います」。
堀さんが金継ぎした200年ほど前の瀬戸物。骨董屋から修繕を依頼されたが、気に入って買い取ったもの。
「共継ぎ」という技法で繕った器。ふたつの異なる古伊万里の破片を継いであり、破片の足りない部分は漆と木粉でつくったパテで形成している。
繕うことで見えてくる新しい景色、新たな価値
直して永く使うことで、さらに愛着が増していく。
堀さんのもとには、金継ぎをしてほしいとさまざまな器が集まってきます。その中には、知人に預けられて堀さんの手元に届いたものもあり、どんな由縁をもつかわからないものも。「でも、直してまた使おうというからには、その人にとって大切なものであることは間違いない。誰が使っていたのか、なぜ割れたのかなど、想像しながら継いでいきます。長く愛着をもって使われてきた器と相対するとき、目の前の器に畏敬の念を抱きます」。
金継ぎを行う堀さんのアトリエ。6畳ほどの広さの工房には、漆を乾燥させるための「漆風呂」と呼ばれる木の棚が置かれ、その中には乾燥中の器や、修繕を待つ器がぎっしりと並んでいます。「金継ぎは、お茶の道具など、高価な器を修繕するなかで発展してきました。けれども、僕は高価な器を直すより、普段の生活で使う器を直すのが性に合っているみたいです」。
現代作家の器を堀さんが金継ぎしたもの。器の色と金の調和が美しい。
継いだ器の金を蒔(ま)いた部分に仕上げのつや出しをする堀さん。器に新たな息吹を吹き込む、集中力が必要な作業だ。
金継ぎの世界では、繕った箇所を景色と見立て、そこに美を見いだし、趣を楽しみます。「直すことで格が上がるというのは、日本独自の文化だと思います。『繕う』という字は糸へんに善くなると書きますが、金継ぎによって器として再び使えるようになればと願いながら、日々、器と向き合っています」。
漆風呂の扉を開けたところ。一定の湿度を保つことで乾燥させる。
漆風呂の上には、堀さんの作品やお気に入りの骨董が並ぶ。
こちらも堀さんが継いだ茶碗。黒に金が映える。